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薪・アウトドアギア あぎょう
株式会社阿形 代表取締役 荒井 禎宏 氏

薪と人をつなぐ職人の手仕事
― 地域で愛される“oyajiman”の挑戦
岡山市南区米倉にある薪とアウトドアギアのお店。
倉庫を改装した店舗の扉を開けると木の香りがふわりと漂い、焚き火好きの心をくすぐる道具たちが出迎えてくれます。
店を営むのは、30年以上のキャンプ歴を持つ荒井社長。
住宅資材の販売から始まりましたが、建築現場で出る木材の端材を再利用したことをきっかけに、3年前に薪とアウトドアギアの専門店を立ち上げました。
「針葉樹は焚きつけに最適で、広葉樹は火持ちが良い。木材の特性によって薪に応用すれば、もっと楽しんでもらえると思ったんです」
その発想から、店では薪を樹種ごとに分けて販売。
楢や桜、樫、そして珍しい梅の木まで。「梅の薪は香りが強くて、なかなか体験できないもの。使ってみて初めてわかる良さを感じてもらえたらうれしいですね」と荒井さんは笑います。焚き火で香りを楽しむという、ちょっと新しい価値を届けています。


薪を支えるのは徹底した乾燥管理
薪の品質を決めるのは「乾燥」。
阿形の倉庫では雨に一切当たらない環境を整え、木の種類や入荷時期に合わせて、2~3か月から1年以上じっくり寝かせます。
「倉庫は熱がこもる分、乾燥スピードも早いんです。ただ置いておくだけじゃなく、薪の向きを変えたり場所を入れ替えたり。均一に乾くように手をかけるのが大事ですね」
真夏の倉庫作業は過酷ですが、「そのひと手間が信頼につながるから」と汗をぬぐいます。
お客さんから「よく燃える薪ですね」と声をかけられることが、何よりの励みになっているそうです。
お客様の声から生まれるギア
店内には薪だけでなく、自社工房でつくられたオリジナル製品が並びます。
薪割り台やペグハンマー、フィールドラック用の天板など、どれも「お客さんの声」から生まれたもの。
「『こういう道具があれば便利』と相談されると、すぐ作ってみたくなるんです。試作してキャンプで使ってみて、調整して…その繰り返しですね」
建築資材や端材を活かしてつくられる道具は、一つとして同じものがない。「他では見られない面白さがある」と、リピーターも増えています。


遊び心を忘れない“oyajiman”
オリジナル製品には、薪を抱えたキャラクター「oyajiman」の刻印が入ります。どこかユーモラスで親しみやすいその姿は、ブランドのシンボル。
「アウトドア用品って無骨なイメージが多いんですけど、見て楽しい、持ってうれしいギアにしたくて。遊び心を忘れないための存在なんです」
地域にひらかれた居場所
倉庫を改装した店舗は、薪や道具を販売するだけではありません。夏休みには子どもたちが宿題を広げ、近所の子どもが駄菓子を買いに来て長居してしまう。そんな光景が、日常の一コマになっています。
スタッフも「社長はお客様の顔と会話を細かく覚えていて、“覚えてくれてるんですか!”と驚かれることがよくある」と語ります。子どもたちからも大人気で、自然と人が集まる場所になっているのです。
子供達からもらった手紙を大切に保管、こういうのが嬉しいんだとにこやかに話します。


未来へのビジョン
荒井さんの思いは、まだまだ広がります。 「薪を選ぶ楽しさや焚き火の魅力を、もっと身近に感じてもらえる場所にしたい。例えば冬には焼き芋や温かい飲み物を楽しめるスペースを作りたいですね」
取材を終えて
工房に漂う木の香りと、荒井さんとスタッフの皆さんの朗らかな笑顔。「また来たい」と思わせてくれるのは、薪やギアの魅力だけではなく、ここに流れる人の温かさそのものだと感じました。
岡山の薪ストアから生まれる“oyajiman”の物語は、これからも多くの人の心を温めていくことでしょう。
